働き盛り世代も直撃する病

 

心臓リハビリ9/カテーテル検査とは、心臓の血管にカテーテル(プラスチックの管)を通し、造影剤(画面に血菅を映す医薬品)を流して、血行状態を調べること。心筋梗塞とは、冠動脈が詰まって酸素を含んだ血液が巡らなくなり心臓が麻痺する病気。致死率は、30〜40%と高い。働き盛りの40代50代がこの病に襲われるケースも多い。偏る食事、不規則な生活、仕事の重圧といった絶えざるストレスなどが原因だ。この世代が心筋梗塞で倒れれば、家族が路頭に迷うこともある。上の人の状況も厳しい。突如人生の荒野に放り出された患者、寄り添う医師。

心臓が酸欠する時

 

心臓リハビリ10/一時的に、心臓の筋肉が酸欠状態になることと、ともいえる。この病気の原因は、心筋にもぐりこむ冠動脈内の、酸素を含んだ血液が流れにくくなること。「アテローム」とは、血管内に蓄積した、細胞の死骸など粥状のもの。痛みは主に胸の中央にある胸骨の裏側に生じる。他に、左肩、左肩がしびれる、歯が浮く感じになる人も。起こりやすい状況は、暖かい所から寒い所に出た直後、喫煙、強いストレスなど。ようは血管が狭まってしまう状況で発生しやすい。狭心症の診断で大切なのは、医師が患者の自覚症状をよく聞くことだという。初期の発作は、深呼吸するとすぐにおさまることが多いので、24時間の心電図やカテーテル検査などの検査ではとらえにくい。また体の負担もかかる。だからいつ、どんな状況で、どんな痛みが起こったかの自覚症状の情報こそ、疾患の性質を見極めるのに重要になってくる。

「心筋梗塞後6時間」という生命線

 

心臓リハビリ11/つまり、心筋梗塞は、狭心症がひどくなったもの。しかし、その痛さは狭心症とは比べられないほど強烈だという。冠動脈内に血栓ができてるのは、血管内のアテロームの袋が破れた時。その傷を治そうと血小板などが集まり、血栓というかさぶたになるのだ。袋が壊れるのは、冠動脈自体がグツと細くなったり、交感神経による異常な興奮で血圧の上昇や心拍数の増加することが原因の一つだという。後者は、血液が台風時の川の様に荒れて血管内を痛めける感じか。とにかく致死率の高い怖い病気。でも重要なのは症状後、すぐに手術すれば助かるということだ。その治療技術はとても進んでいる。バルーンを膨らますなんて、すごいアイデア。

未知の世界

 

心臓リハビリ12/「拡張型心筋症」の患者さんのレントゲン写真を見て、こんなに心臓が大きくなるものかと驚く。大きくなる分、血液を打ち出す力が弱くなる「心不全」の症状に。鮮明に映っている機械はペースメーカーで、電気を心臓に送り、心筋を助けている。曲線の世界の人体に浮かぶ精巧な人工物は、どこか不思議な感じがする。胸水は、静脈圧の上昇などによって染み出たもの。患者さんの許可を得て、聴診器で心臓の音を聞かせていただく。私の耳では、微妙な音の判別ができなかった。やはり鍛練が必要なのだろう。長山医師の聴診器のタッチは柔らかく、見とれるほど。診察という医療の現場は、やはり知らないことばかりで、未知の国に彷徨っているような。いささか疲れてくる…。

創立者の思索へ

 

心臓リハビリ13/「医の心」1/榊原仟著の『医の心』(中公文庫) は、生い立ちから、医師としての半生をつづったエッセイ集。榊原医師の全人格をもって、現場から医療のあり方を見据えた名著だ。一読して、榊原記念病院の基層に、今もこの創業者の考え方が脈打っているように感じた。「心臓リハビリテーション」も、この人の医療観から始まっている。そこで、ルポの合間に、榊原医師の言葉を辿ってみたい。1回目は、「人間の生命と医師の使命−臨床医の立場から考える」より。その冒頭「生命第一主義は、医療の根本理念」と謳う。これは現代医療の大前提なのだろう。問題は次の文である。「このために医師が悩まなければならない…」。まさに現場でのうめきから、彼の思索は始まる。

計器がカタカタ、私を数字化する

 

心臓リハビリ14/運動負荷試験室にて。心肺運動負荷試験(CPX)は、どのくらい体力(運動耐用能力)があるかを調べるもの。その目的は、心臓リハビリの運動処方を決めるデータを取るため。自転車こぎをしながら、心電図、血圧、呼吸中の酸素、二酸化炭素の濃度を計測する。臨床検査技師さんの前で、腹の出たシャツ姿をさらすのが少々恥ずかしい。ビニールの風船状マスクは、しっとりプリンッとした感じ。準備が整うとデータ採取開始。運動前の静止したままで4分、ウォーミングアップのペダルこぎ4分の後、本格的な運動に。だんだんとペダルが重くなる。坂道がきつくなる感じ。ハンドル前のアラーム計が、ピッピッと拍をとる。一分間60回転ほどのペース。早くても遅くてもデータはとれないとのこと。ハアハアと息が上がるまで、約10分運動を続ける。足がずっと宙に浮く状態なので、思うほど体に負荷はかからない。終了後も4分座ったままデータを取る。全身数字になっていく気分。

乳酸の湧きたち具合、正常でした

 

心臓リハビリ15/軽い運動している時は、取りこんだ酸素(O2)と吐き出した二酸化炭素(CO2) の量が同じ。これを「有酸素運動」といい、酸素が十分に取り込め心臓に負担のかかっていない状態。だが、運動量が増加するにつれて筋肉に乳酸がたまり、その乳酸を減らそうとする代謝で二酸化炭素の吐き出す量が増える。この運動を「無酸素運動」という。酸素が不足して心臓に負担がかかる状態。AT(anaerobic threshold 「嫌気」、つまり酸素を嫌う代謝を示す数値の範囲)とは、有酸素運動と無酸素運動の切り変え点とされ、検査ではこの閾値を調べる。身体能力の高い人ほど、きつい運動でATをむかえる。
 結果データを元に、長山医師より診断を受ける。AT時心拍数95拍/分、AT時血圧163/92mmHgなど…と数値は色々あるが、ざっくり言えば、 年齢の基準並みに、運動に合わせた酸素摂取ができ、心臓の動きは正常とのこと。つまり健康。METsは「身体の強さ」を意味し、「AT時酸素消費量4.5METs」とは、有酸素運動の切り替わりが「自転車をきつめにこいで起こりましたよ」と示している。聞きなれない数値や単位がどっさり出てきて少々頭が痛くなる。運動処方では、「トレッドミル(動く歩道の室内マシン)、ウォーキングで、毎時4Kmの普通の歩行を1回30分、週に3〜7回やりましょう。エアロビクスもメニューに」とのこと。今後、心臓リハビリを実際に体験していく予定。

「血圧」を知り、人生に備えよう



心臓リハビリ16/心拍出量は、1分間に心臓から押し出されていく血液の量。血管抵抗では、血管が狭くなるほど抵抗が増す。現在私は40代。長山医師の『心臓が危ない』を読むと、年齢別統計では40代男性の40%が高血圧とのこと。そしてこの世代は危険だとする。高血圧でも90%は未治療だそうだからだ(30代も)。そのため、突然心臓疾患に襲われ、中には心筋梗塞などで亡くなる人も多いという。自分もそうだったが、仕事にかまけていたり、そもそも体について関心もない。自戒をこめて思うが、「高血圧」、また「血圧」についての基礎的知識を、30代あたりで学んでおくべきだろう。高血圧になると血液が激流になり、血管壁にぶち当たってボロボロにするぞ、というイメージを。「血管を痛めてはいけない」と、つまらないことでイライラしないような心構えも持てるかもしれない。

中高年の血管の中は、疾風怒涛

 

心臓リハビリ17/血圧の力は、もともとかなり強い。手術で患者の大血管を傷つければ、天井まで血が吹き上がるのは本当だという。心臓から出た血液は、常日頃、激しくその内壁にぶつかっている。血管は中高年以降硬くなると同時に血圧が高くなるので、上の絵のように傷んでいく。
 最高血圧は、心臓が収縮して血液をドッと動脈に送り出すときの値。最低血圧は、心臓が膨らんで送り出す血液を心臓内に貯める時の値。高血圧の基準は、世界保健機構(WHO) および国際高血圧学会(ISH)が決める。1978年の基準は、160(最高血圧)/95(最低血圧)以上。1999年に、上に示した140/90に、より低く設定された。ただこの数値以下なら大丈夫というわけでなく、成人であれば120/80未満が望ましいとのこと。高齢の人向けの数値もある。老年者高血圧治療指針では、「70歳以上の場合、最高血圧が年齢プラス100を超えた場合に治療を開始する」とされている。血液の大河が逆巻く中高年者の血管は、要を得た「管理」が必要となってくる。

出陣(手術)前の静けさ

 

心臓リハビリ18/会議室にて、4人の執刀医師が、4患者の手術についての最終確認を行う。それを聞くスタッフは、心臓外科医、麻酔科医、理学療法士(PT)ら15名ほど。配られた患者データには、病歴、血液や腎臓、心臓の状態などの数値が刻銘に記されている。執刀医師らは、席に着くなり挨拶も抜きで小声で淡々と話し始め、少し面くらう。専門用語と数値を織り交ぜた情報が、シーンとした室内に流れる。余分な言葉がない。心臓リハビリテーション室のPTである小澤さんも横で真剣に耳を傾ける。後の8時半のミーティングで、ここで得た情報をPTスタッフに伝えるためだ。手術前から患者に対する心臓リハビリの仕事は始まっている。自分がチンプンカンプンだったので、愚問と思いつつ小澤さんに、「説明、分かりますか?」と聞くと、「分かります」と即答。その時、「専門家集団恐るべし」と、感心してしまう。

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