いぶし銀の「佐分利信」
シネマブルースタジオで、
小津安二郎監督の『秋日和』を見る。
1960年制作だから、今から60年近く前の作品だ。
筋以外にいろいろ思うことがある。
オヅヤスは、人を骨とう品みたいに撮るなと。
俳優女優の最良を厳選し、その内面外面の
最良部を愛でつつ彫琢し、美的作品に仕上げていく。
佐分利信は、とくに風格がある。
監督は、彼の重厚さの中に、少しの軽みを入れて、
コクのある人物像を演出。
こんな存在感のある名優、
平成の世にはいない気がする。
みんな軽すぎる。吹けば飛ぶ。
昭和の暮らしぶりや常識、感覚も、
映画にありあり刻まれて面白い。
高度経済成長前夜、
会社の人間関係が濃厚なこと(休日、同僚とピクニック!)、
プロットにかかわるが、
親の知人ネットワークによる、若人に対する
縁談攻勢がすさまじいこと。
今だったらこの無理強いは、セクハラだよなぁと思う。
映画は、そのうっとうしさと辛さを、
しみじみ描いているわけだが。
「スウェーデン」こと始め
最近、なぜ、スウェーデンという国が、
そんなに「先進的」なのか、改めて知りたくなる。
「報道の自由」が世界第1位であり、
進んだ福祉や教育といえば、この国の制度が決まって
持ち上げられる。
とくに、国を挙げて取り組む歯科予防は驚く。
実際に成果を上げ、入れ歯の人が激減しているようだ。
「虫歯」で食っている歯科界団体の圧力はなかったのだろうか。
『スウェーデンを知るための60章』(明石書店)を
読み始めると、
先住民サーミの記述が出てくる。
この少数民族は、過酷に差別された時代があったが、
国は現在、その文化を伝え守るスタンスにある。
国立の学校もきちんとつくる。
「差別」を制度的に克服しているわけだ。
ちなみに日本では、アイヌ文化を学べる国立学校を
つくろうなんて話、とんと聞かない。
本は、歴史、政治、社会、文学、芸術、暮らしと、
多岐なテーマで「スウェーデン」を解説しているが、
じっくり読んでみようと思う。
周辺諸国から、つまり外から見た視点のテーマもあり、
かなり高度で良質な内容である。
最終的な興味は、日本とどこが違うのか、である。
報道の自由が世界70なん位の国と、
どこが決定的に違うのか。
杉村春子、「凡愚」を演ず
北千住の映画館、シネマブルースタジオで
小津安二郎特集をやっている。
いい映画をやるが、なぜかいつもガラガラの
ありがたい穴場の映画館である。
小津映画は、やはりいいなと思う。
年をくってから見ると、学生時代には分からなかった
面白味がしみじみとくる。
1959年作の『お早よう』を見る。
土手沿いの新興住宅街、といっても平屋長屋で、
醤油のかしかりをやるご近所関係が密なところから
生じてくるコメディである。
杉村春子演じるイヤなおばさんが秀逸。
ひがみ心で、ないことあることの陰口を
近所でふきまくり、
周囲を住みにくくしている張本人で、
そのくせ自覚もなく、
性根の悪い人にもなりきれない。
ああ、こんな人いるよな、と面白がりつつも、
反省すれば、
この人の要素はいくぶん自分を含む誰でも持っていて、
こんな人間の集まりが、
つまり「世間」を形作っているのかと思う。
映画は、事件らしき過激なものはまったくない。
テレビが欲しいとせがむ子どものふるまいが
(なんと昭和な風景か!)、
大人たちの日常を軽くかきまわすだけ。
その波紋から、
定年後、次の職探しに苦労する初老の男の嘆き、
定年前のサラリーマンの将来の不安、
家庭に入った女の生きづらさなどが、
じんわり浮き立ってくる。
外国映画のように「神」は出てこない。
「魔物」も「悲劇」もない。
いろんなものを背負って呻吟しつつ、
時に笑いながら、当たり前に生きていく「詠嘆」を
ひたすらシーンとして積み重ねていく。
見終わる前後あたりから、
「奇」のない「凡」の集積がズシリとくる。
やはり、オヅヤス恐るべし。
さすがに面白い『戦争と平和』
有名すぎて、どこか食わず嫌いに読まない本がある。
トルストイの『戦争と平和』がまさにそうだった。
古本屋で1年前に3巻500円程度で買って
ツンドクしていたが、
ふと読んでみると、さすがに面白い。
文豪の筆だけあって、老若男女の、各々世代特有の
心の動きが溌剌と描かれていてすごみがある。
人間観察がいきとどいている。
恋愛、夫婦の悲喜劇、親子の葛藤、生と死、
信仰、歴史…なんでもござれで、
息をのませぬストーリー展開だ。
主人公は、頭の切れる現実主義者の軍人アンドレイと
大富豪でロマンチックな夢想家ピエールの2人。
解説では、トルストイの両面を表してるとあるが、
そう思って読むと、なお興味をもってページがくれる。
ところで、アンドレイの嫁さんリーザは可愛く美しい
貴婦人だが、「唇の上にヒゲがある」という枕詞が
執拗につく。ロシアの婦人は毛深いのだろうか。
候補者を選ぶ
足立区議会議員選挙選挙公報を、
じっくり読んでると、意外と面白い。
足立区で何が問題になってて、政治が動いてるのか
ざっくり分かる。
また、人柄や政治的立場も、並べてみれば
多少推測はできる。
上のこけし顔の人は、提案が具体的で好感が持てた。
教育では「福担任制の復活」、
子育てでは「病児・病後児・休日保育を行う
基幹型保育園の設置」、
まちづくりでは「地域を支える人や活動を支援」とある。
経歴を見れば、英語教師とNGO団体代表で30年以上
活動している。やはり現場を知っている人らしい。
なによりいいのは、
「静かな選挙を心がけます」「公費で選挙カーは使いません」
である。「組織・団体の支援は一切なし」であるから
当然無所属である。
複数の選挙カーが名前を連呼してワーワーやるぐらい
バカらしく、無意味なことはない。
顔と名前の告知なら、街中にベタベタ貼ってるポスターで
十分である。
選挙公報を配るきりでよい。
ホームページで名前を検索すれば、サイトも出てくる。
関心を抱けば、チェックもする。
選挙する方も、うるさく駆けずり回る
選挙運動をしなくてよければ、金もかからず楽ではないか。
金をかけるのなら、議員に当選した後、
自分がやってること、やったことを説明する
サイトや機会をつくることにしてほしい。
『地方議員』という本を読むと、本来、
地方議会では、議員が政党色を出す必要はないそうだ。
首長という「大統領」に対して、
議員たちは「野党」の機能を果たさなければならないからだ。
主流党となって首長と結託することは、
民主政治としてはアウトである。
2000年の地方分権一括法で、
地方分権が劇的に進んだという。
これまで自治体は、国の仕事を代理でやらされていたが、
この法律で自己決定権が飛躍的に拡大した。
住民の意見をうまく集約できれば、
市民自治的な動きが、いろいろできるのかと気が付いた。
でも、現状はそうなってないのだろう…。
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