個と組織の終わりなき闘争
ヤマト運輸のクール宅急便について内部告発があった。冷蔵用の荷が、実際は運送の過程で常温にさらされていたとのこと。内部告発者の立場を考えるが、自分の会社の非をさらすリスクは割に合わないはず。告発したことがばれれば、左遷か社内冷遇は間違いない。告発の動機は、自己の信念、倫理観からだろう。組織には迷惑であっても、その自浄にとっては必要な行為である。だが一方で、100%清廉潔白で組織が成り立つのかという気もする。大組織ほど、個人の倫理観と離れた行動を取ることで、その存在を維持している面もあるはずだ。だから組織に生きる個人は、不条理を飲みこまなくてはならない場面が多々ある。そこで思うのは生き物の体である。身近に人体で考えれば、その数兆の個々の細胞が生き生きと調和し統合されていることには驚嘆する。しかし、その個体維持には、倫理的にとがのある殺生が必要だ。つまり食わなくてはいけない。個と組織が矛盾をはらみつつ、自由闊達になる良い関係はどこかにあると思う。が、どこに?
エビ字型の謝罪
ザ・リッツ・カールトン大阪で、メニューの食材偽装発覚の謝罪会見にて。オリオル・モンタル総支配人の謝罪の礼が、偽装したエビ(クルマエビをブラックタイガーに偽ったなど)の字型に見えた。つまり下げるべき頭の頭が高い。従業員のミスで、偽装でなく誤表示(ミステーク)を連発。それを目の当たりにした蝶ネクタイのホテル評論家が、リッツのミスティーク(神秘性)がミステークに墜ちたと嘆いた。総支配人は、日本文化に従って、「私が悪うございました」と黙って「つ」の字型に頭を下げきればよかったのだ。謝罪の記者会見は海外にはない風習らしいので、きっと勝手がわからないのだろうと思う。しかし、超一流ホテルでこれだから、外食でいったいなにを食わされているのか分からない所に本当の怖さがある。
拒絶の突風
みのもんた氏、次男の窃盗容疑で、報道番組降板。31歳で家庭持ちの次男は大人であり、その責任を親がとるのは明らかにおかしい。この降板は、世間の、みの氏に対する怨恨の圧力だと思う。「報道」と称し、一個人の主観で、世の事柄を好き勝手に断罪し過ぎたのだ。立場は、テレビ報道の場という高見から。批判する側は、絶対の正義の側にいるから批判できる。みの氏のはうさん臭すぎる、というわけだ。親族の事件が、彼を追い落とすかっこうの標的になった。風はマスコミ批判の熱も含んでいる。個人の顔で体をはって意見を言い続けたのみの氏は、マスコミの中の有象無象よりは立派である。だが、タレントの基盤は、漠然とあてにならない人気。それを彼の慢心が、視聴者をイライラさせ、崩していった。かくして、テレビカメラが増幅する「発言力」という虚構のろうで固めた、彼のイカロスの翼は、拒絶の突風であっさりふっ飛ばされた。世のマスコミへの怒りもひっかぶって…。
無意識のうめき
夢。自転車のかごに、毛並のなめらかなサルがぐんねりと入っており、ペダルをこいている。最近、やたら動物のペットの夢を見る。きまって、か弱き命に対して愛おしいなぁと、何となく切ない想いをいだく。動物は、自分の野生的なものなんだろうと思う。ライター業は孤独で、文字の世界に入り込む時間がえんえん続くので、自分の心が、具体的な現実世界の接触を求めてるサインだろうか。何か月か前、仕事で、キャバ嬢出身でシングママの不動産社社長さんを取材したことがある。「私は本も映画も音楽も必要ない。そんなものは勘を狂わるだけ」ときっぱり言った言葉を思い出す。その人は人生そのものが切ったはったのドラマなのだ。現実で充足する人を尊敬する。またライターはそんなタイプの人を文字化したいという困った宿業がある。もっといろんな人を取材したい。
「ギャル曽根」を考える
テレビをつけたら、ギャル曽根の大食い番組がやっていた。東海道沿いにあるドライブスルー内の有名レストランを次々と移動し、かたっぱしから名物メニューを食べるというもの。彼女は実によく食べる。食うプロだ。恐るべきことに移動中も食べる。それも美味そうに食う。たしかにその食べっぷりは気持ちいい。でもなぜそれだけのことで視聴者は魅入ってしまい、番組が持つのか。何か現代の「食」の歪みを象徴してないか。果たして満腹中枢が壊れているギャル曽根は健康なのか。食い物を飲んでいて本当は味わえてないのではないか。いろいろな疑問がわいてしかたない。ただ食べる時の彼女の目が意外なほど虚心な黒目で、背後で地獄の餓鬼が慄いている姿を思い浮かべてしまう。
企画・いぶし銀オヤジ写真集
前にいた会社の上司で、還暦を過ぎているのにやたらと女性にモテる上司がいた。年齢関係なく社内外の女性たちがことごとく「素敵だ」と言う。当人は、浮ついたところの微塵もない、知的な感じの無骨な人である。そんな世のモテオヤジをスカウトして、彼らの働く姿を撮った写真集をつくれば、売れるのではないか。例えば、張り込みするベテラン刑事、バーカウンターでカクテルを振る白髪マスター、湯切りするラーメン屋の親父、寒空のプラッホームで背を丸めるシニア紳士。写真は、男の哀愁あるダンディズムをテーマに、全編モノクロの、時に荒く、時にシャープな粒子で描く。ハガキサイズの50ページほどの写真集で、値段は980円のお手頃価格。贈答品用に最適。このベストセラー企画に興味のある編集者の皆さん、ぜひご連絡を!
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