薄曇りの堂々巡り



広告の仕事で、名刀の模造品のコピーを書く。男性向けホビーだが、なんで男はこんなものが好きなのかと思う。刀といえば所詮人殺しの道具である。その二重波紋の薄曇りの優美さがかえって血を鮮烈に連想させる。残酷な死への戦慄が美への感応へとつながっていくのだろう。刀の美には、命は短し、美しく潔く果てよという桜の美学、武士道が底流にある。最近、「武士道というは、死ぬ事と見つけたり」の『葉隠』の入門書を読む。「人に意見する時は、怒らせぬよう、やんわり言え」などの処世術もある。太平の世に書かれたもので、基本的には、戦を知らぬサラリーマン的武士を鼓舞する書である。「死ぬ事」を思い定めて、シャンとして生きよ、と言うわけだ。名刀の武士道も『葉隠』と同じ文明人の刺激剤なのか。しかし、やはり殺しの道具を愛でる文化は不健康で、文化は元来不健康なものなのかと堂々巡りに考える。

ジャーナルなラジオ



安物CDデッキが壊れて安物CDデッキを購入。以前はなぜか聞けなかったラジオが聞けるように。晩にFMをつけてると音楽番組の女性DJかと思っていた艶のある声が、時事問題を手際よく報じ、解説していくのに驚く。TVの女子アナのような原稿棒読みではない。最新情報をちゃんと自分の頭で分析している。しまいに脱北者から北朝鮮の実際の暮らしをイタンビューする。元在日の人で帰還事業で北朝鮮に渡った人だ。その人曰く、同事業でまだ北朝鮮にいる日本人妻が日本に帰りたがっていると。今、拉致被害者の引き渡しを求めると北朝鮮は硬化するが、日本人妻であれば資金援助がほしい彼らの取引材料になる。その日本人妻の中に、拉致被害者をさりげなく含ませれば、引き渡しが容易になるのではと言っていた。ひょっとして有効な手ではないか…ラジオ、「すごい」と思う。

ホリエモン素描

 

出所して、痩せて少し老けたホリエモン。この人の言動に共感したことはないが、発信力にはいつも感心する。獄中でメルマガを発信し、月860円で1万人の会員がいるという。倒れても億円はひっつかんで起き上がる商魂がすごい。「有名」が生む富なのだろうが。

10万年のロマン



久々の広告の仕事。10万年に1秒の誤差、という時計のコピーを書く。なんとか研究機関の原子時計が飛ばす電波を時計がキャッチして、誤差を改めるらしい。しかし10万年といえばそもそも人類が存続しているのか。存続していたとしても「時計を見る」という概念自体あるのか。実際には、時計の本体やなんとか機構自体が消滅しているだろう。だだ 「10万年に1秒の誤差」という計算式が虚空に存在している。万年単位になると正確無比というのもロマンチックだなぁ。

寒い朝



先程の9時30分頃、コンビニに行って帰る。道中は雨で、おんぼろビニール傘を持つ手がかじかむ。今朝は2時に起きてしまい寝付けず、CDで田辺聖子による『源氏物語』の講演と、向田邦子の小説を岸田今日子の朗読で聞いた。よけい目が冴えてしまった。古今、女の人の書く女と男の物語は、本当に恐ろしい。心身寒い朝。

変転する青

 

パプア調査12/朝7時に、一同ボートへ乗り込み、ココポを発つ。強烈な海上の日差しを避けるため、各々帽子、布やタオルで頭を覆う。ボートの右手に原生林の緑の帯が流れる。昼にトルで休息。午後も波は比較的穏やか。海と空の青が、刻々と表情を変え、見とれる。夕暮れになってジャキノット湾に入る。焼畑の煙を立ち上らせる群青の山が、ゆったりと現れる。マラクル村だ。人懐かしい気持ちに包まれる。

イカ墨キッスの孤独

 

中目黒キンケロ・シアターにて、愛川欣也(キンキン)・監督主演の映画『荷風はこんな男じゃない』を友人と見る。冒頭、スクリーン中央に月のアップ。脇に、黒いレオタードの女性がお尻をくねらせ、テロップが流れる。続いて、ストリッパーがずらり裸の胸をゆらせて踊る。度胆をぬく始まりに、キンキンやるなぁと感心する。彼が描く小説家・永井荷風は、ひたすら女性にもてる。ストリッパーたちに「せんせえ」と慕われ、小料理屋の女とも同棲。キンキン荷風は、ひたすら女性の言うことをうんうん聞く愛玩動物のようだ。御年70代のキンキンの日常にも思えてくる。妻ケロンパとのやり取りもこんな感じなんだうか。NOが言えないキンキン荷風は、ある時、気に染まぬ文化勲章をもらっとたん、がっくりしなびる。そんな頃、イカ墨スパゲティーをごちそうしたストリッパーから、黒ずんだ口でやんやとキスを受ける。キンキン荷風の頬は痛々しく黒キスマークに汚れ、目には哀愁。国家権力の褒美を唯唯諾諾と受け、庶民から切り離れてしまった文化人の孤独がにじみ出る。月も泣く(筆絵の目鼻を描かれ)。続いてキンキン荷風は、同棲女性に家出され、顔面蒼白。公園をヨレヨレに歩き、疲れ果てベンチで横になる。その彼に、警官が「なんだお前は」と理不尽に絡む。「キンキンは警察が嫌いなのだ」と、後で友人と結論する。ネットで自前の番組を持ち、タブーなく世の問題を斬るキンキン。体制に何の批判精神を持たぬ芸能界にあっては稀有な人である。キンキン自主映画は、荒く不器用だが、独特の感性が漂う妙な映像世界だ。

ブタ、踊る

 

生き延びの儀式。

強肉弱食

 

反撃。

横取り

 

ままならぬ。

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