違いの分かる男になりたい



先日、大学時代の友人と3人で、新宿の地酒居酒屋に行く。40代は転機の時代らしく、お互い生業の様子が揺れ動く話をする。さて、博識の友人は、メニューの銘柄を見て、これがうまいと勧める。自分は、飲む割には本当に酒を知らない。社会に出てはや20年、みかけは老けたが、なにかにつけおそろしく成長してないと思う。人生いつまでも「酔えばいい」の勢いまかせでは芸がない。「味いを知る男にならねば」と舌を緊張させてみても、酔ってしまえばやはり同じ味。ただ言えるのは「極めました」という完全だけど死んでしまったお酒より、酵母菌がグツグツした生きてるようなドブロク系が好きなこと。

身分



アート鑑賞3/また『上野彦馬と幕末の写真家たち』より。撮影者不詳で、1860年代に写した武士と従者の写真をアップで模写。なぜか最近八の字眉に目がいってしまう。台座に座る武士は、見慣れないであろう写真機への好奇心と照れで「ほほん」とした感じの人だ。その横に膝を立てて控える従者の顔が強烈。まったく主体性を持たず、「打ちひしがれた感」をグヅクツにつめて、そっくり黒く人の形に固めたよう。身分、というものが肉体に刻印されている。浮世絵では分かるはずもない幕末の顔を伝える写真の生々しさ。

正論とパワーゲーム



集英社「戦争×文学」シリーズの『オキュパイドジャパン』に収録されてる木下順二の劇シナリオ「神と人とのあいだ」より。戦後直後に行われた極東国際軍事法廷にテーマにした短編。実際にアメリカ人弁護士がこう日本を弁護して、当時の日本人を驚かせたという。ハーグ条約は、オランダのハーグで決められた国際条約。この弁護士は弁護士の職業倫理から被告日本の立場に立ったにすぎない。しかし、世界の国々の取り決めとして原爆投下は犯罪とする論はまっとうだ。ただしこの弁護士、原爆投下は戦争終結の時期をうちきり、多くの人命を救ったと母国の見解は捨てない。正論と国家間のパワーゲームがぶつかり交錯する東京裁判のドラマは、今の世界とつながって見えてくる。この本、アメリカ占領時代の日本を描いた短編集だが、他国に占領されるといことは、本当に尊厳を踏みにじられるなぁと思う。

寒風に立つ言論の自由



渇いて冷たい風が身を切る夕暮れ時。駅前の階段下に男たちが肩をこわばらせて立つ。勧誘のおっさんが、語尾を妙なイントネーションにあげて店の広告をとなえる。風俗店勤めくづれの流れ者だろうか。顔色が悪い。その横で、かっぷくのよい中年紳士が、国政の夢を朗々と語る。政治家修行の辻立ちというやつか。勤め人を全うしていれば、有能で博識な上司でいたろう。政治家をめざすなんて、と嘆く家族の顔が少しちらつく。広告も国政の声も、同一地べたにつっ立って寒風になぶられる。そして誰の耳にも届かない。

明治5年からメンチを切る男

 

アート鑑賞2/『上野彦馬と幕末の写真家たち』より。1839年にヨーロッパで発明された写真機は、金属板に画像を映し出すダゲレオタイプという。10年後、早速、長崎の商人によって日本に持ち込まれ、幕末の写真家が登場。その写真集をくってると不思議な感じがする。この写真の現在は、日清日露戦争も起こる前で、自分の祖父母さえ生まれていない「時」であることを。またこの頃の人は体型が小柄で痩せてるなぁとも。21世紀の今、みんなが携帯やデジカメであらゆるものを撮りまくってる。100年後の歴史家は、個人撮影の映像から歴史を編纂するのかもしれない。未来の映像作家は、故人の映像を再構成して、ドキュメンタリーやドラマをつくれるかも。こんな調子で人類の歴史が1000年続いたら、どれだけ膨大な映像が蓄積されていくのだろうと思うとクラクラする。それは、未来人の時間感覚、歴史認識を変えていく気がする。幕末の源氏吉五郎さんが「泉谷しげるに似てる」と平成時代の私に言われるなんて思いもよらなかったように、我々も未来人から何を言われるか分かったもんでない。

水を吸った青い女



アート鑑賞1/マチスの貼り絵を水彩でおおざっぱに模写。水彩って、絵を立体化するんだなぁ。マチスの貼り絵自体が一見おおざっぱにみえるが、なぞってみると、やはり絵としてバシッと決まってる。絵は描きこむほど、リアルであるほど絵になるか、というわけでなく、平凡になっていくことが多い。絵は、現実を取捨選択した、その人のシンボルの結晶なんだと思う。マチスの絵の、ふるえるような迷う線が好きだ。チェスみたいに少しずつ、あーだこーだと激しく色を探りながら、よしここ、と色を置いていく感じが知的。

人間悪に、13,980円捧ぐ



パソコンのウイルス対策の会社が、契約更新に13,980円 払えと振込用紙を送ってくる。実に痛い出費だ。自然界の悪性ウイルスは、自然の摂理だからいたしかたない。しかし、パソコンのウイルスとは人間が意図的につくったものだ。智慧をしぼってうんうん考える奴がこの世にわんさかいる。わざわざパソコン環境を悪くするために日々努力している。この人工のウイルスとは、悪業深き人の心が投射されたもののよう。パソコン自体が軍関係が開発したものというから、「攻撃」というのは最初からあった概念なのか。どちらにしても、人の心が真っ正直ならいらぬ出費!

豚肉カレンダー



安売りスーパーの国産豚バラ肉(250g)398円は、一日2キレずつ食べれは6日は持つことに気づく。豚バラは脂身があるので、鍋でも炒めものでも使えるからだ。今週では火曜はトン汁、水曜は豚焼肉丼。以降予定で、本日木曜は豚シャブの水だき・おじや、金曜は豚肉ジャガ、土曜は豚キムチ、日曜は豚お好み焼き。ズラリ豚づくし。肉が毎日食えるということはすごいことだ。

軽々超えちゃう人



ワールドカップのジャンプで、日本人初で最年少16歳の高梨沙羅ちゃんが総合優勝。ソチオリンピックの金メダルに期待がかかる。まさにぶっちきりの時の人に。別の時期のインタビューで沙羅ちゃん曰く、「オリンピックは最終目標じゃないです。目標はなにかって? 言ったら減る感じがするので言いません。フフフ」とのこと。権力と金にまみれ、国の威信を背負わされるオリンピックなんて最初から軽々飛び越えてるのが好感。新しいタイプの人だろう。沙羅ちゃんには、「飛ぶ」ことそのものを体得して、人類を代表する「鳥」になってほしい。自分の全存在の重さをかけて、飛ぶこと、空と一体化することって、気持ちいいだろうなぁ。「あなたは、なぜ飛ぶんですか?」という質問を延々とジャンプ選手に聞くドキュメンタリー映画をつくれば楽しいと思う。

雄叫びバッハ



バッハ・スイング2/無伴奏チェロ組曲第一番を、清水靖晃がテナーサックスで。チェロのほくほくまったりした曲だが、テナーサックスが吹き散らすと野性味が出る。合間のブォーッと割れた金属音は、まるで荒くれのトラック野郎数台並び、夜空にヘッドライトをガンと向け、クラクションを高らかに放つよう。25分全部聞くと、練られた演奏の構成にしびれる。

http://www.youtube.com/watch?v=mbNG5UBMG50


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