商売気なさと構造に惚れた

 

41/土地も見つかり、Mさんはつくり手を探す。「和で、現代的なものを」と、ネットで検索するも、希望にかなう所が見つからない。困って役所の「工務店一覧」の電話番号にかけていく。河合社長が電話口に出ると、商売気のなさに好感。そこで早速会うと、棟上げ前の中野邸を見学に行くことに。どこも丁寧な仕上げで、伝統的な仕口に感嘆。隠れた所に手を抜いていない。大黒柱が見事に太い。構造が大切と考えていたから、「もうここだ」と決めた。紹介してもらった建築家・辻垣根さんの考え方にも非常に共感できた。

「伝統」へのこだわり遍歴

 

40/家の構想はMさんが練った。プレハブ住宅は嫌で古風なものをと思った。実は高校生の頃から日本庭園に憧れるような古好み。30代、研究者としてイギリスに暮らした際、「伝統」について考えた。ジャパンフェスティバルの庭園を見た時、剪定の概念がなく、庭木が大木化していて驚く。一方で、街並みに残る中世のレンガ造建築の美しさに目を奪われた。この二つの体験から、その国の美は、伝統の枠内で開花すると感じた。帰国して、奥さんの実家である伝統家屋の風格に心酔。理想の家は、「和」しかないと思う。

家も障子も粋な「和」

 

39/樹々が茂る公園を囲む住宅街。その一角に、切妻屋根を大らかに広げたM邸が佇む。洋風の隣家と並ぶので、和風の外観がよりほのぼの。クリーム色の土壁(土佐)が、庭の緑に優しく映える。桧の引き戸をガラリと開けると、正面に粋な円形の障子が訪問者をお出迎え。中も外もMさんがこだわった「和と伝統」のテーマが行きわたっている。
 10年前、都心のアパートに住んでいた。しかし目の前の汚染された川が原因で、お子さんがアトピーに。それで郊外の借家に移り、5年間、家族を健康にする家を新築したいと準備した。

モコモコ

 

駅前通りでの風景。駐車場前の剪定された生垣の形が、モコモコ。高さは同じだが、形がみんな違う。生き物だなぁと思う。

「平成放蕩ドラ息子」について

 

総額106億円の会社の金を、カジノですった大王製紙・井川意高前会長。現在集中砲火を浴びる人を、さらになじるのは大人げないが、上のコメントがあったとされる報道にカチンとくる。不良息子が家の財産を蕩尽するというのは、大昔からあったことだろう。でも、平成の大会社の元で起きるというのは、日本の企業はまだまだ近代化していない証しなのかも。近頃の読売新聞のナベツネ騒動、オリンパスの損失隠しなどもしかり。江戸時代の尾形光琳は、勘当された原因の芸者遊びで磨いた教養にインスピレーションを得て大絵師になった。井川さんは、無駄遣いで研ぎ澄ました「軽〜い」感覚で、フワフワのティッシュペーパーを世に出した。後の世の人は、井川意高なる人を、平成文化の一端を体現した遊び人として思い出すことがあるかもしれない。当時のニュース映像を発掘して…。

緑、白、木のハーモニー

 

 38/外観を改めて眺めると、ハーフティンバー様式は、東京の大地に違和感なく根付いていた。シラス壁に浮き立つ栗(三重)の木骨が凛々しい。横長の屋根はガルバリウム鋼板だが、河合社長の指示で継ぎ目がない。屋根業者が驚くのをよそに、ロール状のものを現場まで運ばせ、必要分を裁断。一枚物だから雨が漏りにくいのだ。
 地元出身の奥さんは、子供の頃からこの坂を通学。ここの敷地をいつか手に入れ、家を建てたいと想い描いていたとか。家はとうとう実現。そして現在、娘さんがのびのびと日々を過ごし、朗らかに成長している。

無重力!

 

37/S家では、夫妻の友人や、娘さんの友人たちがよく招かれる。2階居間は、ホームパーティにうってつけ。大人たちが奥さんの入れた紅茶でテーブルを囲む。その合間で遊ぶ子供たちはみんな裸足。輪になって座り、顔を寄せ、立って走っては栗の床に寝転ぶ。見上げる杉の天井は高く、気持ちが良い。絵はちっとも嘘ではない。木の優しい空間に包まれて過ごすと、心は無重力に。
 この家はつくる時から、人を呼ぶ。1階和室の奥の引き手には中野さん作の七宝焼きが。玄関の飾り梁は、宮田邸の庭で余ったケヤキの丸太が。

家族のように

 

36/前出の中野邸宅を見学した時、夫妻は驚いたという。「河合社長、わが家のように押入れをバッと開けるんです。建て主さんとの関係の築き上げ方がすごいんだなと」。
 それは、家づくりの過程の一つひとつを、建て主が存分に参加できるからかもしれない。S一家も心ゆくまで楽しまれたよう。
 バスツアーで山に入り、大黒柱となる木の伐採を家族で目の当たりに。工事が始まれば毎日現場に通い、職人さんたちと声を交わした。趣味のことまで話がはずんだりも。時には、塗料を塗る作業も体験。チームはやがて「家族」のように。

イメージは、徹底して共有

 

35/夫妻の原型のイメージは、スイス・アルプスで宿泊したロッジ風のホテル。そこで、洋風の家を手がけるハウスメーカーを巡るも、要望は聞き入れられず。だが、「大地を守る会」より紹介された河合工務店は、「できますよ」と。
 夫妻がイメージする建築は、長野県にもあった。八ヶ岳高原ヒュッテで、ハーフティンバー様式。中世の欧州で建てられ、木造の骨組を見せるものだ。イメージを共有するために、なんと高岡さん、河合さん一家、S家がそのホテルに宿泊。共に時を過ごすうち、気心が知れた「家づくりチーム」が誕生した。

遊び心のキャッチボール

 

34/2階居間は、圧倒的な木の空間。心地良い小ホールのようだ。大きな梁は、酒井棟梁の手斧(チョウナ)で加工した赤松(岩手)。天井は赤味の杉(岩手)、床は栗。ロフトに上がる階段は、桧、ナシ、タブ、ネム、杉で、無垢材の見本市のよう。
  キッチン前のカウンターは、当初レンガ造りを要望したが、重くて中止。そこで夫妻はバリの喫茶店内装で見た「木のパッチワーク」を提案。河合社長は、木の端材をレンガのように組むことに。ダンボールで模型をつくり、自ら大工に指導して4日間かけて作成。手間を惜しまず、遊び心満載。

| 1/4PAGES | >>

このサイト内を検索

携帯ページ

qrcode