企業は森を二度殺す


 
13/企業伐採は二度「収奪」する。一度目は、森を丸刈りにし、その木材を世界中に売りさばく。二度目は、更地にユーカリ(紙パルプのため)などの換金作物を植え、プランテーション農業を展開。企業は「植林したのだから環境破壊ではない」と胸を張る。嘘だ。農地は農薬で汚染され、災害に弱い。生活基盤を奪われた地元住民は、農地の安価な労働者に。森は死んでいく。大雨が降れば、ラテライトの赤い土砂が、血の涙のような奔流に。
 南国の楽園にこんな破壊をもたらすならば、日本は自身が豊かに持つ森の木を使うべき。

目と足で確かめる環境問題

 

12/河合工務店のHPに掲げる「こだわり」を追う。まずは「国産材」。
 1960年頃からハウスメーカーにより、安い家が大量に建設される。同時に東南アジアの熱帯材が伐採され、日本に輸入。それは合板となって大量消費され、貴重な原生林は消滅の危機に。しかし、政・官・財が結託した外国企業は、伐採をやめない。環境破壊と共に住民の人権を蹂躙して強行。でもこう言う。「住民の焼畑も環境破壊。我々企業は経済的に貢献している」。果たしてそうか。パプアの会のツアーで、河合社長は、現地を自分の目と足で確かめた。

ゆっくりと、全力疾走

 

心臓リハビリ24/歩行を始める前、齊藤科長は、Tさんに彼の腕時計の時間を聞いた。見当識を確かめるためだ。肉体的には大丈夫でも、注意が散漫になっていると、転倒の恐れがあるからだ。リハビリ期間、PTは、患者の心臓と精神の安定のバランスを見極めることが大切になってくる。この日は、5mを行って帰っての2セットで、20mの歩行訓練を行う。Tさんは目的地の椅子にどっかり座ると、「フゥ〜」と一息ついた。「200m…」の疲れ度合いは、多くの患者さんを診てきた齊藤科長のコメントから。また、リハビリについて「理想は筋肉のみに刺激を与えたい。それだと辛い感じはなくなるでしょうから」と話す。ところで書いてから気づくが、「しんどい」は私の出身地の関西弁だった。「辛い」「苦しい」という意味。語感では、「しんどい」の方がTさんの心境にぴったりだと。

術後1日目で、最初の一歩

 

心臓リハビリ23/一般病棟の70代男性患者Tさんのリハビリに立ち合う。疾患は、心臓左心室の一部が硬くなり、心臓が「たこつぼの」の形状に似る心筋症。心臓手術の翌日に早速…というのは驚く。最初にクリアしなければならない体の大切な動きは、ベッドから体を起こすこと、立つこと、そして歩くこと。PTの齊藤科長は、車椅子に乗るTさんから、5m離れた所に椅子を置く。ベッドからトイレに行くまでの距離を設定している。齊藤科長が寄り添い、歩行トレーニングが始まる。Tさんは長い廊下を前に、かすれた声で「うがいしたい…」とつぶやく。

声のぬくもり、手のあたたかさ

 

心臓リハビリ22/CCU(冠状動脈疾患管理室)は、ICU室のフロア一角にある。急性の危機状況の患者さんたちがベッドに。齊藤科長は、大きな温かい声で、80代女性患者のKさんに話しかける。「きつい? 咳払いできるかな?」。無表情のKさんの顔に少しほころぶ。病名は、大動脈弁狭窄症。心臓の左室から大動脈にうまく血液が送れない病気だ。体が手術に耐え得ないほど衰弱しているので、2週間このベッドに横たわる。齊藤科長は、Kさんの見当識が正常か、質問で確かめる。両手の白い袋は、意識が混濁した時、体のチューブをむしり取らないようにするため。ずっと点滴など口以外で栄養を摂取。齊藤科長の指示で、入院して初めて氷を看護師の手から食べることに。口内の筋肉を刺激し、硬化を防ぐためだ。Hさんは弱々しく「おいしい…」と一息つく。齊藤科長は「体内の疾患が治せないまま、心臓リハビリに入ることになります。根本的な治療ができませんが…」と表情を曇らせる。Hさんはささやくように、家族の話をする。齊藤科長の手が、その腕を握る。

無明からの帰還へ

 

心臓リハビリ21/手術後、患者の体重は、水分や尿などの体液で重くなるという。それを体内から出した管で排出するなどして調整する。ベット前に置かれた担当看護師の記録用紙には、体液の出入り、心拍、血圧、呼吸などの変化を一時間こどに記録。PTは、そのデータと実際の患者を見て、どの程度体を動かすか、呼吸器を外す時期などを看護師に指示する。
 ICUは昼夜ない非日常の世界。患者さんは時に見当識を失う「ICUシンドローム」に。自分が誰で、何をしているかが分からなくなるのだ。そんな人はチューブやマスクをむしり取ってしまい、大変危険。PTの齊藤科長はICUでの仕事を語る。「見当識を保たせ、自然のリズムがつくよう、睡眠薬を調整しながら起床就寝の時間を規則正しくします。いかに正常な自然呼吸に"無事着地"し、一般病棟に戻ってもらうか。ここまでの段階も、治療戦略としてのリハビリなんです」。患者さんたちの顔を改めて眺める。この世の大地を踏みしめようと、無明の世界に苦しく佇んでいるよう。

集中治療室の日常

 

心臓リハビリ20/上の患者さんは60代男性。大動脈解離の手術の後、現在3日間このICU(集中治療室)のベッドに。お腹から出た何本もの管が痛々しい。昨日、人工呼吸器の大型から小型のものへの替えがうまくいかなかったとのこと。小型が使えるようになると一般病棟へ戻れる。PTのチーフである齊藤科長が、担当者PTに代わってその原因を調べに行く。諸冨医師を伴うのは、治療が必要な場合、すぐに対応できるようにするため。右下の女性は常時ICUに待機する担当看護師。患者さんはつらそうで、ベッドから起き上がる時、周囲のスタッフの助けを借りる。大柄な人なので、ちょっとした大仕事に。齊藤科長の見立てによると、小型の吸引器のマスクが物理的に合わず、不快感を催してしまうのだろうとのこと。吸引器のマスクは、鼻と口を完全に密封するので、かなり息苦しい。ベッドの周りは、器具でびっしり。慣れないので、異様な風景に見え、感情が少しうわずる。

手術後の患者をイメージする場

 

心臓リハビリ19/心臓リハビリテーション室にて。PT(理学療法士)の齊藤正和科長とリハビリ医の諸冨信夫医師の元に、PTチームが集まる。ICU(集中治療室)で待機中の患者の容体を確認。これで今後の心臓リハビリメニューの当たりがつけられる。報告者の若手PTを、注意する諸冨医師。後ほどその訳を、院内を案内された齊藤科長に聞く。「『話は、短く、濃く』です。さっきのは、『出血が止まって容体が安定』で、切っていい。報告者は、自分が得た情報を単に並べるだけでなく、重要な要点をつかみ、噛み砕いて分かりやすく伝えること。報告相手に患者の状態をはっきりイメージさせなければ。この伝えるスキルは、患者に対しても必要です。実は、この報告、新人の訓練のためにも行っています」。医療現場には、膨大なデータが溢れる。一方その中で、患者の生死を左右する情報を瞬時に選りわけ、把握し、確実に共有しなければならない。そっけなく見えるスタッフ間のやりとりに、重要情報が、短く、濃く、手渡されている。


出陣(手術)前の静けさ

 

心臓リハビリ18/会議室にて、4人の執刀医師が、4患者の手術についての最終確認を行う。それを聞くスタッフは、心臓外科医、麻酔科医、理学療法士(PT)ら15名ほど。配られた患者データには、病歴、血液や腎臓、心臓の状態などの数値が刻銘に記されている。執刀医師らは、席に着くなり挨拶も抜きで小声で淡々と話し始め、少し面くらう。専門用語と数値を織り交ぜた情報が、シーンとした室内に流れる。余分な言葉がない。心臓リハビリテーション室のPTである小澤さんも横で真剣に耳を傾ける。後の8時半のミーティングで、ここで得た情報をPTスタッフに伝えるためだ。手術前から患者に対する心臓リハビリの仕事は始まっている。自分がチンプンカンプンだったので、愚問と思いつつ小澤さんに、「説明、分かりますか?」と聞くと、「分かります」と即答。その時、「専門家集団恐るべし」と、感心してしまう。

原発のウソを訴え続ける

 

11/若き日、学生運動に打ち込んだ河合社長。安保闘争から「反核」「反戦」運動と駆け回った。当時の主張は今も変わらない。特に原発反対のデモや活動には積極的に参加し、勉強もする。手渡された「原発は"温暖化防止の切り札ではない」と論じるパンフレット(日本カトリック教会と平和協議会)は分かりやすいので、要旨を絵に。原爆の父・オッペンハイマーが原爆を破壊神シバになぞらえたことにならう。
 「電力に頼る生活から改めるべき。オール電化の家は愚かなこと」。反核の思想は、深く仕事につながっている。

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