ぶざまなきれいごと
川上未映子著「ヘヴン」48/辛辣である。「相手の立場」を言うのはきれいごと。それを突き詰めて、殺される牛の気持ちを考えれば食事もできない。どいつもこいつも善悪の理屈や規範は単なる建前で、適当に自己都合で生きている。人間の幸福は欲望の充足、につきる。その欲望を存分に享受するなら、弱きを叩く強者になるべきだ。という力の論理は、渡世を生きればありふれた現実。百瀬は、少年らしい潔癖さで、その醜い現実を強烈に軽蔑しているのかもしれない。だが彼は己の欲望にムカつきながらも、「強者」ヘの道を見定めている。解としてシンプルだからだ。善を口にしてぶざまな偽善に陥るよりは、欲望ありきの人間観に徹する方がクールである。百瀬ほど頭が切れてドライなら、将来相当「成功」すると思う。その態度を貫くならば。