確信犯的な善意映画

 

 

アキ・カウリスマキ監督の『ル・アーヴルの靴磨き』を

北千住のシネマブルースタジオで見る。

フィンランド映画だが、舞台はフランスで、言語もフランス。

 

港町ル・アーヴルに住む老いた靴磨きマルセルが、

密航者のアフリカ少年を助ける話である。

この映画には、徹底して善人しか登場しない。

貧乏人のマルセルの勇気ある蛮行を、みんながみんな応援する。

密航費用も、チャリティコンサートをして稼ぐ。

取り締まる側の敏腕な警視長官も、

マルセルに共感し、ついには少年をかばう。

結果、少年は、母親が移住している

イギリスへ向かう密航船に乗り込むことに成功。

そしてラスト、マルセルの、死に瀕して入院していた奥さんが、

奇跡の回復をするのである。

映画には、チラリチラリと教会や

牧師が登場し、キリストを意識させてるが、

まさにマルセルを神が祝福している図となる。

善因善果、良き行いをする者こそ讃えられんと。

 

一見、ほのぼのした映画だが、

移民問題に揺れるフランスに向けての

強烈なメッセージも込められているように思う。

おお、フランスよ、あなたはかつて

レジスタンス運動で、非合法下の苦しい抵抗を続け、

善意を貫き、悪しきをくじいたではないか、

今、その心が必要なのではないかと。

 

映画のほんの一瞬、

『カフカ短編集』を読む人のカットあり。

カフカの不条理ドラマは、

決まって急展開して最悪の悪夢に突入する。

「この映画の不条理は違う。善夢に転じるのだ」という

監督の意図を感じなくもない。

急転直下によみがえったマルセルの奥さんの

真正面の優しい姿は、実に神々しいのだ。

 

もう一つ、この映画の魅力は、

老いた男女たちの、いい男、いい女ぶりだ。

この表情と人格に到達できるなら、

歳をとるのも悪くないと思う。


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