アリの想い
憲法映画祭1/
一昨日、友人と、憲法を考える映画の会が開催する
「憲法映画祭2019」に行く。会場は、武蔵野公会堂ホール。
また、昨日、仕事が急になくなったので、
続けて足を運ぶ。
2日で重量級のドキュメンタリー映画を10本も見た。
一番、名作だと思ったのは、
池谷薫監督の『蟻の兵隊』である。
主人公は、奥村和一という81歳の元日本兵だ。
彼は、国を提訴している。
大戦終結後、総隊長の指令で残留兵となって
中国の内戦を戦い捕虜となったが、
9年後に帰国すると国から「逃亡兵」とされ、
軍人恩給を支給されなかったからだ。
日本としては、戦後に戦力を残したとことになれば、
受託したポツダム宣言に違反したことになるので、
奥村の証言はいっさい認めない。
彼は、黙々と蟻の兵隊のように戦ったが、
国から、結局捨てられた。
奥村がさらに怒り悲しむのは、その国が、
自身を殺人マシーンに仕立て上げたこと。
初年兵のとき、「訓練」として、
銃剣で中国人を突き刺さしたときが決定的だったと語る。
その時から、人殺しをなんとも思わない
「兵士」になったという。
映画は、指令の証拠を探しに、中国に渡る奥村を追う。
なんと山西省の公文書で、
残留部隊の総隊長が書いた命令書が見つかる。
この歴史的証拠をカメラに収めることで、
ドキュメンタリー映画としては十分成立する。
だが、奥村には、もう一つの目的があった。
自分が初めて殺人を犯した場所に行くことと、
その現場にいあわせた中国人に話を聞くこと。
監督の池谷は思わず「なぜか?」と問いただす。
すると当時の自分を客観的に知り、
見つめ直したいという。
そして奥村は、殺人現場に立つ。
悔悛、恐れ、嫌悪、怒り、悲しみ、安堵…
いろんな思いが混じる表情。
案内する中国人、周囲の人たちも、
複雑な思いで奥村を取り囲む。
ある中国人のおばあさんが、奥村の前に現れる。
16歳の頃、母親とともに、
日本兵に輪姦されたことを淡々と、
ときに怒りを見せて話す。
じっと悲しそうに耳を傾ける奥村に
「あんたは悪い人には見えないわよ」と
おばあさんが声をかける。
いいシーンだなと思う。
国家への責任追及の怒りは、自己正当化に向かいがちだ。
しかし、奥村は、殺人兵器と化した自己を
真正面に追及する。
人間性の回復を、自前で孤独に力の限りやる。
それは国のいがみ合いも、血塗られた歴史も超える。
このパワフルな人の足跡を
きっちり記録できたことは、
まさに奇跡。