無重力レスレング
無重力遊び/1
火星へ行くまで、ロケットで半年かかるという。
その間、問題となるのは時間の潰し方だ。
船内という密室空間で精神的に健康を維持し続けるなら、
気晴らしが必要だ。
そこで無重力スペースを使ってのお遊びを、
色々考案しようと思う。
そのうちNASAから声がかかるかもしれない。
第一弾は、無重レスリングである。
ルールは簡単。
密閉された球体内の赤い印に体をつけたら負け、
というもの。
もちろん球体内は無重力であり、
二人向かい合う競技者は、
上下左右の方向感覚を持てない。
ただし、赤い印は固定されているので、
そこに意識が方向性を見出すだろう。
このレスリングは、腕力があまり必要ない。
強く相手を押すほど、作用・反作用の法則で、
自身も吹っ飛ばされてしまうからだ。
相手を赤い印に追いやるには、
繊細な力加減、幾何学的構想が求められる。
いはば、「人間ビリアード」であり、
思考力と熟練の技が勝負を決める。
競技者の汗は、球体の水滴となって飛び交い、
それが体にまつわりついてくるのは
いささかうっとうしいかもしれない。
裸よりは、汗を吸着するウェットスーツでも
着るのがよいかも。