夕暮れ、階段道に腰掛け、
韓国のまちを眺める2人。
売春の疑惑で補導された不良少女チャン・ウンスと、
警察で大暴れして彼女を奪い返した老婆チョ・ジョンブン。
両者は血縁関係でもない、隣家の友人にすぎない…。
映画『雪道』(2017年作、イ・ナジョン監督)の
ラストに近いシーンである。
ドラマ自体は、老婆ジョンブンによる
日本軍慰安婦の壮絶な記憶が、
現代に生きる2人の話と交錯して進んで行く。
ジョンブンは1944年当時、ある韓国の農村の貧しい家の少女。
彼女は、豊かな家の少女カン・ヨンエと共に、
有無を言わさず日本軍に連行され
慰安婦の収容施設に放り込まれる。
日本の勤労挺身隊に志望していた誇り高きヨンエは
二重に裏切られ、その耐えがたい生活に憤怒。
収容施設を脱走し、池の氷を石で割って死のうとする。
「もし自分が彼女であったら、
同じ憎しみに身を投じたろう」と血がカッとなる。
それを寸前で止めたのが、ジョンブン。
彼女は、どんなことがあっても、いつか収容所を脱して
生き抜く希望を説く。
その時は、日本兵に見つかり、髪を引きづられ
戻されてしまうが。
ストーリーは痛切。
2人の少女は、後に施設脱走に成功するも、
ヨンエは雪の平原で力尽きて死ぬ。
ジョンブンは一人、過酷な戦後社会を生き抜ぬくことに。
だが、それは収容所より地獄だ。
貞心敬う儒教国家の中で、肩身狭く、
ケアもろくにされず、傷ついたまま社会の片隅で老いていく。
この映画が並みの作品でないのは、
慰安婦の経験を経た女性の強さと癒しの姿を、
現代の不良少女との交流を通して描き出したこと。
「人生はろくでもない。だが生き抜かなければならない」。
そう諭した老婆ジョンブンの確信が、
生きづらさでは同じ現代っ子も癒していく。
だから冒頭のシーンが好きなのだ。
「お前にはまだ早い」と
ウンスから手持ちのタバコをひったくった姿に、
これぞ、修羅場をくぐった大人の風格なのだ。
こんな大人、今、めったに目にかかれまい。
慰安婦時代の少女を演じたキム・ヒャンギと
キム・セロンの演技が素晴らしかった。
いじらしくて、美しくて、気高い。
ちなみに、この映画が上映されたのは、
両国にある本所緑星教会。
「大手映画館が配給しないため、
ここでこそ上映したい」という
同教会の神父さんと慰安婦問題にかかわる市民団体が
手弁当で実現。
主催者の熱意こもったよい上映会で、希有な名画だった。
その情報を察知した友人に誘われ、共に見る。